地域包括ケアシステムの導入の背景にあったものとは? 2025年問題を乗り越えるための日本の取り組み

地域包括ケアシステムの導入の背景にあったものとは? 2025年問題を乗り越えるための日本の取り組み

地域包括ケアシステムは、現在国や自治体が総力を挙げて取り組んでいる施策の一つ。

地域に住む高齢者が住み慣れた場所で安心・安全に、そして尊厳のある生活を継続できるように、介護保険サービスだけでなくそれ以外のフォーマル、インフォーマルなサービスも含め一体的に提供していく、というのがその主な目的です。

また現在、自治体が中心になって「介護予防・日常生活支援総合事業」も展開されつつありますが、これも地域包括ケアシステムの考え方を体現した事業の一つとも言えます。また地域の高齢者を支える地域包括ケアセンターも、その考えを実現するための重要な施設だと言えるでしょう。

しかしなぜこの「地域包括ケアシステム」のようなケア体制が作られるようになったのでしょうか

なぜ介護保険サービスによるケアだけでなく、「地域の様々なサービス提供主体が手を取り合って、高齢者を支えていく……」というアプローチが必要になったのでしょうか。こうした問いについて、以下で少し取り上げてみましょう。

介護保険制度のスタート

2000年から開始された介護保険制度

90年代までは、重い要介護者のケアは施設への措置入所や老人病院への長期的入院(在宅では介護しきれないので、で老人病院に長期入院する)によって行われるのがメインでしたが、その方法では急速に進む高齢化の前では施設数、病床数ともに不足することは明らかでした。

そこに全く新しい制度として導入されたのが介護保険制度。2000年度からスタートしました。それまでの施設ケア重視の介護のあり方から、「介護予防」と「施設から在宅へ」の考え方を重視する介護保険制度が始まったことで、日本の高齢者介護の様相はがらりとかわったわけです。

介護保険制度の財源

介護保険制度の財源は、国民が払う介護保険料と、公費(国と地方自治体の税金)によって賄われます。

保険制度形式にすることで、介護費の半分を保険料という形で国民が担うことになり、国・自治体が負担する公費部分を減らすことができたわけです。いわば、高齢化が進んでも日本の国家財政が破綻しないための策の一つでもあったと言えるでしょう。

居宅サービスのサービス利用量を要介護度別の給付限度額の設定という形で上限を設け、また要介護認定やケアプランの作成を通して無駄のないサービス利用を目指してもらうことで、保険料負担、公費負担の増大化を抑えることも目指されています。

介護保険制度の問題、限界

介護保険給付費の増大化

しかしこうして始まった介護保険制度も、高齢化率の急速な上昇と共に要介護認定の認定者数、介護サービスの利用者数ともに増加することで、限界が指摘されるようになります。

「平成29年度高齢社会白書」によれば、2003年度時点の全国の要介護認定者数は約370万人でしたが、2014年度には約592万人となり、10年ちょっとの間になんと220万人以上増えているのです。要介護認定者が増えれば、それだけサービス利用に伴う介護保険給付費は増大します。

また国が負担する社会保障費(医療、年金、福祉その他を合わせた額)は、介護保険制度が始まった2000年度では80兆円を超えていませんでしたが、2014年度において112兆1,020億円となり、14年間で30兆円以上も膨れ上がっています

このような状況が続くと、「施設だけでは高齢者はケアしきれない」という想定で始まった介護保険制度でしたが、国民の保険料負担額は際限なく上昇し、公費負担の額の上昇も留まるところを知らなくなります。いわば「介護保険制度だけでは、国民の家計、国の財政が持たない」という状況が到来してきたわけです。

介護保険サービスを支える人材の不足

介護保険サービスを支える人材も不足状況が続き、厚労省が公表した需給推計によると、後期高齢者が75歳以上となる2025年には、介護人材が全国で38万人は不足するともいわれています。介護保険サービスでは施設介護、訪問介護、通所介護などさまざまなサービスが行われますが、どの職場も体力的、精神的にきつい職場であり、若い人の成り手が思うように増えていないのが現状。

さらに介護職の給料は全産業平均よりも低く、きつい仕事の割には待遇がよくないという状況であり、そのことも新規人材の参入を妨げる要因となっています。

ただ介護人材の待遇を高めるということは、各介護施設・介護事業所に払う介護報酬を増やすということであり、それは引いては保険料負担の増額、公費負担の増額を伴うことにもなるのです。安易に対策を取れないというジレンマがあるのも実情となっています。

地域で負担する、という発想のもとでの地域包括ケアシステム

介護保険サービス以外の「フォーマル」、「インフォーマル」なサービスの重視

介護保険制度にきしみが生じ始めつつある中、政府・厚労省が打った策が、地域資源の活用でした。そこで重視されたのは介護保険サービス以外の「フォーマル」、「インフォーマル」のサービスを、高齢者のケアに活用していくという考え方。

フォーマルなサービスとは、非営利団体(NPO)、民間企業、社会福祉法人、社会福祉法人、そして各自治体が行う高齢者支援事業など。これら介護保険制度とは別枠のサービスを提供できる組織・団体。これらの機関が提供するサービスの力を存分に活用して、高齢者を支える一助にしようというわけです。

そしてインフォーマルなサービスとは、家族、近隣住人、友人、ボランティア、民生委員、小規模非営利団体など。その一例が介護予防の取り組みの上で重視されている「自主グループ」。

自主グループとは、近所の高齢者同士が集まって介護予防運動に取り組むという活動で、各自治体はこの活動を支援し、指導員の派遣や介護予防体操のDVDを貸与するなどのサポートを行っています。

地域包括ケアシステムの課題

地域包括ケアという言葉が介護保険法の中に登場したのは2005年の改正時。それ以降、改正のたびに「地域」という言葉がキーワードが盛り込まれ、重視されてきました。

しかし課題も多いのが現状、まずは地域包括ケアシステムにおいて重要な各組織・団体間のネットワークがきちんと築けるのかどうかということ。地域包括ケアにおいては、高齢者を支えるには医療、介護の各機関をはじめ、多様な主体間の連携が不可欠。しかしまだまだ成熟した連携が構築されていないのが、全国的な現状です。

連携の中心になるのは地域包括支援センターですが、このセンター自体、自治体が運営しているのは全国で3分の1ほどで、残りの3分の2ほどは自治体が社会福祉法人や社会福祉協議会に委託して運営しているという状況。

その結果、地域内のサービス事業者間のネットワークの中に行政職員が入っていないことも多く、自治体側が地域内の事業者、サービスの担い手のことをよく分かっていないという事態も各地で生じ始めているようです。

またそもそも、サービスを提供する場合は、「どのくらいサービスが必要とされているか」という「ニード」の把握が重要になります。「ニード」は高齢者福祉の分野では重要な概念ですが、実はこの把握もなかなか難しいところ

将来的にどのくらいサービス・ニードが発生し、そのためにどのくらいの事業者、サービス提供者が必要となるのか、正確に予測することは困難。まさにその困難さゆえに、介護保険制度も「このままでは制度運営が困難になる」という状態になったわけです。

そこで生じる誤差にどのように対応していくのかが、今後の高齢者福祉のあり方における大きな課題となります。

まとめ

介護保険制度が提供するサービスだけでは高齢者を支援しきれないことが明らかになりつつある中、政府・厚労省が新たなパワーとして注目してきたのが「地域」の力でした。それを政策として体現された地域包括ケアシステムは、近年全国的に定着化が進められ、自治体による「介護予防・日常生活支援総合事業」などもその一環として行われています。

ただ課題も多く、日本の高齢者福祉が2025年問題を乗り越えられるかどうかは、まさに今後数年間の行政機関の努力、そして地域内のさまざまな組織、団体の手腕にかかっているともいえるでしょう。

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